歯周病で見られる「垂直性骨欠損」とは?
~歯を支える骨の減り方からわかる、歯周病のリスク~
「歯周病で、歯を支える骨が溶けています」
歯科医院でこのように説明を受けて、不安になったことはありませんか?
かくいうわたしも、歯周病の説明でよく使うフレーズです!(^^)
歯周病は、単に歯ぐきが腫れる病気ではありません。進行すると、歯を支えている歯槽骨(しそうこつ)が破壊され、最終的には歯がグラグラして抜歯が必要になることがあります。
現在、日本における、歯を失う原因の第1位は【歯周病】です!
しかし、歯周病による骨の減り方にはいくつかの種類があります。
その中でも、歯周病治療で重要視されているのが「垂直性骨欠損(angular bony defect)」です。
今回は、1991年に発表された論文をもとに、垂直性骨欠損とは何なのか、歯を失うリスクとどのように関係するのか、そして歯を守るためには何が大切なのかを解説します。
歯周病になると、なぜ歯を支える骨が溶けるの?
歯と歯ぐきの境目にプラーク(歯垢)が蓄積すると、歯周病細菌によって歯ぐきに炎症(腫れや出血。発赤など)が起こります。
炎症が長期間続くと、歯ぐきだけではなく、歯を支えている歯槽骨にも影響が及びます。
歯槽骨が少しずつ吸収されると、歯を支える力が弱くなり、進行すると歯の揺れや咀嚼機能の低下につながります。
特に注意したいのが、「骨がどのように減っているのか」という点です。
支える骨の減り方には「水平性」と「垂直性」がある
歯周病による骨吸収には、大きく分けて2つのパターンがあります。
① 水平性骨吸収
歯の周囲の骨が、比較的水平に少しずつ低下していくタイプです。
複数の歯に同じような骨吸収が見られることもあります。
② 垂直性骨欠損
一方、歯の一部分に沿って、骨が縦方向に深く失われるタイプがあります。
これを「垂直性骨欠損(angular bony defect)」と呼びます。
レントゲン写真を見ると、歯の横に沿って深く骨が失われているように見えることがあります。
このような骨欠損では、深い歯周ポケットを伴うこともあり、歯ブラシだけでは清掃が難しい場合があります。

〇で囲まれているところが、骨の表面吸収が起きているところです。
垂直性骨欠損がある歯は、将来失われやすい?
この点について、非常に興味深い論文があります。
PapapanouとWennströmは1991年、歯周病患者を対象として、レントゲン写真で確認された骨吸収の形態と、その後の骨吸収や歯の喪失との関係を調べました。
その結果、水平的な骨吸収を示していた歯と比較して、垂直性骨欠損を認めた歯では、その後の骨の吸収や歯の喪失が多く認められました。
特に注目されるのが、10年間の歯の喪失率です。
水平的な骨吸収を示した歯では約13%だったのに対し、垂直性骨欠損の程度が大きくなるにつれて、
約22% → 46% → 68%
と、歯の喪失率が高くなっていました。
つまり、歯周病では単に「骨が減っているか」だけではなく、「どのような形で骨が減っているのか」も、その歯の将来を考えるうえで重要な情報になると考えられます。
なぜ垂直性骨欠損は注意が必要なのでしょうか?
垂直性骨欠損では、歯の周囲に深い歯周ポケットが形成されることがあります。
歯周ポケットが深くなると、歯ブラシの毛先が届きにくくなり、プラークが残りやすくなります。
すると、
プラークが蓄積する
↓
歯周組織に炎症が起こる
↓
歯を支える組織(骨、歯ぐき、歯根膜)が破壊される
↓
さらに歯周ポケットが深くなる
という悪循環に陥る可能性があります。
特に奥歯では、歯の根が複数に分かれているため、歯周ポケットの奥に入り込んだプラークや歯石をセルフケアだけで取り除くことが難しいケースもあります。
「垂直性骨欠損=抜歯」ではありません
ここは、とても大切なポイントです。
レントゲン写真で垂直性骨欠損が見つかったからといって、その歯を必ず抜かなければならないわけではありません。
Papapanouらの1991年の研究は、垂直性骨欠損と将来的な歯の喪失との関連を示した重要な研究ですが、現在の歯周病治療やメインテナンスを受けている患者さんに、その結果をそのまま当てはめることはできません。
現在では、歯周病の状態を正確に診断し、
- 歯周ポケット検査(歯ぐきをチクチク触る検査です)
- 出血の有無
- プラークコントロールの確認、指導
- 歯石の除去
- 咬み合わせの確認
- 歯の揺れの評価
- レントゲンによる骨の状態の確認
- 必要に応じた歯周外科治療(歯周組織再生療法、切除療法、ポケット減少療法、維持療法など)
- 治療後の定期的なメインテナンス
などを組み合わせながら、できるだけ歯を長く残すことを目指します。
垂直性骨欠損では「歯周組織再生療法」が適応になることも
垂直性骨欠損の中には、歯周組織再生療法を検討できるケースがあります。
歯周組織再生療法とは、歯周病によって失われた歯周組織の再生を目指す治療です。
ただし、すべての垂直性骨欠損が再生療法に適しているわけではありません。
骨欠損の深さや形態、残っている骨の壁の数、歯の根の形、歯周ポケットの状態、歯の動揺、プラークコントロールなど、さまざまな条件を総合的に判断する必要があります。
そのため、
「レントゲンで骨が減っている=再生療法ができる」
という単純なものではありません。
歯周組織の状態を詳しく検査したうえで、一人ひとりに適した治療方法を検討することが重要です。

上述の症例に対して、歯周組織再生療法を行った結果です。
吸収していたところに、骨が再生してきました!
歯周病は「痛くないから大丈夫」ではありません
歯周病の大きな特徴のひとつは、進行しても強い痛みが出ないことがあるということです。
むしろ、痛みがないまま歯を支える骨が少しずつ失われているケースもあります。
次のような症状がある方は、一度歯周病の検査を受けることをおすすめします。
- 歯みがきすると歯ぐきから血が出る
- 歯ぐきが腫れる
- 歯ぐきが下がって歯が長く見える
- 歯と歯の間に隙間ができてきた
- 歯が以前より動くようになった
- 口臭が気になる
- 噛み合わせが変わってきた
- 過去に歯周病を指摘されたことがある
特に自覚症状がない場合でも、定期的な歯周病検査によって早期に問題を発見できる可能性があります。
大切なのは「悪くなってから治す」だけではなく「悪くならないように守る」こと
歯周病治療で最も大切なのは、単に現在の炎症を抑えることだけではありません。
「なぜ、この歯の骨が減ってしまったのか?」
そして、
「これ以上、歯を支える組織を失わないためにはどうすればいいのか?」
を考えることです。
垂直性骨欠損は、歯を支える組織の状態を知るための重要なサインのひとつです。
早い段階で発見し、必要な治療を行い、その後も適切なセルフケアとプロフェッショナルケアを継続する。
それによって、歯周病の進行を抑え、将来もご自身の歯を使い続けられる可能性を高めることができます。
10年後、20年後も自分の歯で食事をするために
歯科医院に行く目的は、「痛くなった歯を治すこと」だけではありません。
本当に大切なのは、今ある歯をできるだけ長く健康な状態で残すことです。
そのためには、虫歯だけでなく歯周病についても定期的にチェックし、歯を支えている歯槽骨の状態まで確認することが重要です。
「最近、歯ぐきから血が出る」
「歯周病が心配」
「レントゲンで骨が減っていると言われた」
「できるだけ自分の歯を残したい」
このような方は、一度ご自身のお口の状態を詳しく調べてみてはいかがでしょうか。
歯を治すだけでなく、歯を守る。
さっぽろデンタルオフィスパートナーズでは、
現在のお口の状態だけではなく、10年後、20年後もご自身の歯で食事を楽しんでいただけることを目標に、歯周病の予防・治療・メインテナンスに取り組んでいます。
参考文献
Papapanou PN, Wennström JL. The angular bony defect as indicator of further alveolar bone loss. J Clin Periodontol. 1991;18:317-322.


